No.87 西の風新聞目次
学 力 考
平成20年11月21日付
 文科省では全国的に子ども達の学力状況を把握する「全国学力・学習状況調査」を実施しているが、その結果を学校毎には発表しないとする市町村教育委員会をここに記すことも出来ないような言葉で罵倒する知事もいて世は賑やかだ。
 そもそもこの学力調査は競争試験ではなく、点数の結果について学校単位で公表することによって学校間の序列化や過当競争につながらないよう配慮することを前提として、その結果を踏まえて各教育委員会、学校が子どもたちの学力の現状を認識し、教育指導等の改善にむけて計画的に取り組むことが目的となっている。
 “調査への参加→現状認識→指導上の問題点の把握→改善策の確定→一連の流れの公表と保護者への協力依頼”この取組みこそが市町村教育委員会・各学校に課せられた大きな責任なのである。取り組まない、改善計画を持たない、その一連の結果を公表出来ない、いわゆる隠蔽する教育委員会・学校があるとすれば、前述知事の言に反発することは許されまい。
 子どもの学力に関して、ノーベル賞受賞者が興味深いことを言っている。
 日本の科学教育の現状について「科学にロマンを持つことが非常に重要。あこがれを持っていれば勉強しやすいが、受験勉強で弱くなっている。」「子どもが素朴な疑問を自分で調べ、答えを得る感動の機会を増やすのが大事だ。」「本来みんなが持っている好奇心が選択式テスト、マークシート式テストに頼っていては、生徒に考えさせないことになる。『教育汚染』だ」「今の親は、教育熱心でなく、『教育結果熱心』だ。」
 ある教育開発研究所発行の季刊誌に大学の英語教育の教授が書いた興味ある論文が載っていた。今年の8月ドイツで行われた応用言語学会における時のこととして次のようなことが掲載されている。
―日本の高校生の英語ライティング(書くこと)・スキルに(技術)ついての(日本人教員の)研究発表について、フィンランドの英語教員から次のような驚きのコメントがあった。「(中略)ライティング・テストはわずか30分だということですが、これは私たちには驚きです。どうやって物事を考えるのでしょうか。私たちの国では、母語のライティング・テストは6時間、英語のライティング・テストは3時間与えます。」―
フィンランドの教師は、英語のライティング・テストに生徒に3時間を与え図書室でいろいろな本を参考にして内容を書き上げさせる、日本の30分という短さを不思議がり、生徒はどうやって考えるのかと質問してきたというのである。試験は知識を試すだけの、いわば暗記の試験ではないという観点に立っているのであろう。
 ノーベル賞受賞者の提言、フィンランド教師の疑問、二つとも似ているところがある。実は日本でもこのような考えに立ったいわゆる「ゆとりの教育」を始めたが、「学力低下論」の嵐と「未熟な教育方法論」の現実に押し切られ後退を余儀なくされてしまった経緯がある。
 学校教育において、基礎学力から発展的思考学力の向上にいたる子どもの教育指導方法の確立が今求められている。


妙高山(妙高市HPより)

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