No.86 西の風新聞目次
娘からの伝言
平成20年10月31日付

 がん検診のひとつである大腸内視鏡検査を受ける機会があった。自宅で前夜からあらかじめ指示された下準備があり、眠れぬ夜を過ごしての病院行きであった。
 検査室に集まったのは女性6人、男性3人いずれも見知らぬ、年齢もばらばらの初めて会う人ばかり、小学校の教室ほどの広さの部屋に案内され、両隅に女性一列、男性一列になって距離をおいた対面形式で座らされ受診にあたっての説明を受けた。各自の横に置かれたビニール袋仕立ての容器に入っている白い水2リットルを1時間で飲むことを指示されたが、どうやらその液体は、腸の中の異物をきれいにするためのもので下剤も入っていて、決して飲みやすくはなかった。腸の動きをよくして早く体外に排出させるため適度の運動も必要と各自院内散歩に出かけ、また飲み込む、の繰り返しであった。
 人間とは良く出来たもので、はじめは見知らぬ者同士、会話のない状態から互いが苦しむ環境におかれると相手を心配する雰囲気が生まれてくる。数時間後無事検査が終ったときには学生時代のクラスメートのような気楽な関係になっているのだから面白いものである。

 東海大学菅生高等学校創立25周年記念事業の一環として開催した「アグネス・チャンおしゃべりコンサート」でアグネスさんと接する場面があった。昨年10月乳がんの手術を受け現在もホルモン剤の治療を受けているという彼女は10月5日付け朝日新聞でがんについてつぎのように述べている。
 ―たばこ、酒、夜ふかししない。子どもも3人産んだ。これだけ健康に気を使う私でも(がんに)なった。誰にでも起きうる病気なんです。―
 コンサートではデビュー曲ひなげしの花、この良き日に(がん制圧運動推進テーマソング)等熱唱する傍ら、がんの早期発見・早期治療に向けてより良い環境が作れるようがんばりたいと訴えていた。

 昨年夏、生還を信じて2年間の闘病生活のかいもなく、40歳の若さで逝った娘も生前、がん等の病気に苦しむお年寄りのボランティア活動を目指してしたようだった。日本対がん協会初代ほほえみ大使のアグネスさんのような派手さはないまでも彼女なりに地道な活動をしていたらしい。
 仏壇の写真に手を合わせる時「お父さん、いろいろなことで苦しむ人たちの気持ちを大切に元気にがんばってね。」と語りかけられる毎朝である。

 index        西の風目次 
2002・8・9~ Produce byIchiro Akami