No.84 西の風新聞目次
母の温もり
平成20年9月19日付
 横になってうとうととラジオ放送を聴いていると懐かしい歌が耳に飛び込んできた。
雨雨ふれふれ母さんが
蛇の目でおむかいうれしいな
(ぴっちぴっち
ちゃっぷちゃっぷ
らんらんらん)
※以下括弧部分は繰返す。
かけましょかばんを母さんの
後からいこいこ鐘が鳴る

あらあらあの子はずぶ濡れだ
柳の根かたで泣いている

母さんぼくのをかしましょか
君君この傘さしたまえ

ぼくならいいんだ母さんの
大きな蛇の目にはいってく

 ご存知の北原白秋作詞 中山晋平作曲の童謡「あめふり」である。
この歌詞を英訳した人がいる。それによると
「道端でずぶ濡れになっている女の子にお母さんが持ってきてくれた傘を貸してやろう。僕はお母さんの大きな蛇の目傘に入って一緒に帰るから構わないんだ。」と訳されている。
 ずぶ濡れの「子」は、私は子供の頃から男の子と思い込んでいたが、英文ではGirlかBoyにしなければならない。「あめふり」は英文のようにストレートに表現しないで読む者がそれぞれに解釈をする、いわば余韻を残す表現の日本語の特徴もあるが8・5調の短い文章の中に子を思う母の温もりを見事に歌い上げている。  
 白秋は波乱に満ちた57年の生涯に数多くの詩歌を残した。
雨、城ヶ島の雨、あわて床屋、からたちの花、この道、砂山、ペチカ、待ちぼうけ、ゆりかごのうた等々私たちにおなじみのものがたくさんある。
 ところで「母の温もり」にかかるあなたの思い出はどんなことがあるかと問われれば、私は即座に次のように答えるつもりだ。
 “抱っこされたこと 毎晩寝床で口伝えに楽しい童話を聞かせてくれたこと、学校の父母参観日には必ず参加し教室の片隅でそっとみていてくれたこと。そして家族一緒の夕食の場で褒めてくれたこと、継ぎ当てをしてくれたこと、弁当を毎日作ってくれたこと、疎開先で歩いて遠くの農家に行って自分の大切な着物と米を交換してもらって真っ白なごはんをたらふく食べさせてくれたこと。等々”
 その明治生まれの母も今年97歳となり我が家の宝物となっている。

参考文献 岩波文庫
与田凖一編日本童謡集 

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2002・8・9~ Produce byIchiro Akami