No.81 西の風新聞目次
深刻な問題
平成20年7月11日付

 「(子供の)学力低下よりも、深刻な問題はほかにある。」という有馬朗人先生(元文部大臣、元中央教育審議会会長他)の話を紹介しよう。(内田洋行教育研究所 学びの場)

“心配なのは、倫理観が落ちていること。日・米・中の3カ国を調査した結果がありますが、日本の子供の80%は親に反抗することは自分の自由だと思っている。先生に対しても同じです。アメリカでさえ15%で中国はもっと少ない。「学校をずる休みする」「売春をする」に関して自分の自由だと思っている子供が日本はずば抜けて多い。このように倫理観が落ちていることも、学力低下問題より深刻な問題です。”
倫理観の低下によると思われる現象は単に子供だけの問題ではないようだ。

イタリアの世界遺産地区の大聖堂に落書きして世間のひんしゅくを買った大学生達、我が子の給食費を払わない親、救急車を予約する者、食品偽装事件の多発、国家公務員のタクシー接待問題、同じく社会保険庁職員のずさんな年金事務処理、朝のTVニュース生放送中カメラの向こうのスタッフに目をつり上げ不規則発言をする民間某局の女子アナ等数えあげればきりがない。

一昔前に社会評論家の大宅壮一という人が、「一億総白痴化」という流行語を生み出した。テレビの普及によりテレビばかりみていると人間の想像力や思考力を低下させてしまうという意味合いであったのだが、大宅氏の言葉を借りるとすれば、さしずめ現代は、「一億総倫理観低下化」ということになるのかも知れない。そんな大人たちに「しっかりした道徳を身につけさせろ」「学力低下が問題だ」といわれる子供達はたまったものではないというのが本当のところかも知れない。しかしそれでも子供達にはきちんとした倫理観を教え込むことが必要だ。

有馬先生は続けていう。“基本的な問題は、いかに倫理観を育てるか、勉強する意欲を持たせるか、運動能力をつけるか、ということです。倫理観や運動能力に関しては、家庭や地域社会の力が必要なんです。基本的なしつけや言葉遣いは家庭で教える。外での振る舞いについては社会が教える。その家庭や地域社会の力が落ちていることが問題なんです。”

私が小学校卒業の時に校長先生からいただいたサイン「健と美とそして聡明と」の意味することの大切さをあらためて感じるとともに子供の倫理観形成には、家庭、社会にも増して学校教育の果たす役割が大きいと思っている。


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