No.77 西の風新聞目次
言 葉 力
平成20年4月11日付

 「現代<死語>ノートⅡ」小林信彦著(岩波新書)が3月31日付け夕刊読売新聞“この一冊”欄に紹介されている。説明によれば、いっとき流行したものの、廃れてほとんど使われなくなった言葉(「死語」)のうち闇の中に消えてしまったものを列記して、それぞれに著者の論評(思い出)を加えており、日本の戦後史を振り返ったような気になる本とのことである。「歌は世につれ世は歌につれ」とよく言うが、言葉も同じことなのかもしれない。

 ミュンヘンからロンドン ヒースロー空港へ向かう満席の飛行機の中でのこと、たまたま直ぐ後ろの座席に日本人の女性二人が乗り合わせた。春休みを利用しての卒業記念旅行のように見受けたが、この二人のおしゃべりには閉口した。

 およそ2時間の飛行中あたりかまわず大声で喋り捲っていたのであった。長距離飛行機と違って航空音がやや静かな機内にあってひときわ目立つ声であった。折角はるばるヨーロッパまできたのだからせめて窓から見える地形をながめ会話したらと思ったが、たわいもない自分たちの日常のできごとを面白おかしくそれも大声でしゃべりまくっていたのであった。これほど日本語を騒音に感じ、語彙不足の情けなさを耳で感じたのは初めての経験であった。と同時に乗り合わせた多数の外国の人々に同じ日本人として恥ずかしい思いをした。

 「人は言葉で考え、言葉で学び、言葉で意志を伝え、言葉で残す。言葉の意味を正確に把握し、語彙を豊かにして操ることは、人間として生きる上で、最大の力となる。コミュニケーション力は人間力」(菅生学園初等学校学校案内から)言葉の大切さを語っている。

 近年、場に応じた言葉の使い分けができない、或いは語彙・表現力が乏しい等、言葉の乱れが嘆かれている。例えば「ら抜き言葉(例 「シャツが着られない」を「着れない」と表現する。)や「さ入れ言葉」(「行かさせていただきます」と「さ」を入れて表現する。)等がその代表例だ。言葉は時代により変化するから心配にあたらずという向きもあるが、正しく美しい日本語による言語活動は是非守っていきたいものと私は思っている。

 次期学習指導要領(文科省が定める小・中学校等の教育課程の基準)では「各教科等における言語活動の充実」が重要な改善の視点になっており、小学校等では、すべての教科学習で言語活動に取り組むことがうたわれているという。
 
 
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2002・8・9~ Produce byIchiro Akami