No.74 西の風新聞目次
朝顔は朝顔の花を咲かせる
平成20年1月18日付

人の生涯における大きな節目の一つである卒業式の季節がまもなくやってくる。
私が卒業した小学校の校長先生は毎年卒業式の当日、またの日に君達がこれを読みかえしてくれることを期待すると文頭に記して「卒業生諸君に贈る」と題したがり版刷の藁半紙二枚程を卒業証書とともに手渡してくれるのであった。かれこれ60年も経過した現在、卒業証書とともにその印刷物が私の手元に保存されている。亡くなった先生から「今頃なんだね。」といわれるかもしれないが、出来るだけ原文に近い形で紹介することにする。

【私はまた今年も卒業生諸君に贈る言葉を書きつける。私の唯一の卒業生への贈り物である。小学校ご卒業おめでとう。考えてみると人の一生はある区画から出来ている。その区画を凌いで生きぬいていくと、すべて「おめでとう」という祝福の言葉を贈られる。みなさんが、母の胎内で無言の成長をとげて、この世の光をあびたときに「お誕生おめでとう。」それから6年間の幼児の時を経て、小学校に来て「入学おめでとう。」殊に諸君の小学校6年間は敗戦後の世の中で、言葉ではつくせない悲惨、窮乏、混乱があり、それらが渦まいて流れた。君達の父母、教師はそれらから守るために、どれだけの苦心と努力を払ったことでしょう。けれどもその混乱の中から新しい数々の芽が出て、新しい考えや施設が生まれて、その幾分を君達は受けることが出来た。卒業おめでとう。このめでたい卒業は、だれのおかげで出来たのでしょう。父母やお家の人々の心からのお世話でしょう。先生方のお蔭でしょう。私の子供は、幼稚園に上がって幼稚園から朝顔の苗をもらって来て育てたら大きなきれいな花が咲いて驚きました。土は黒い。葉はみどり。そして赤い花、紫の花。この不思議な力が朝顔にはあるのです。君達の体の中にも立派な花を咲かせる力があることを悟って下さい。自分を尊び、いとおしむことー自分の力に目覚めることーそして自分のよい成長の途を歩くーそれがみなさんに分かって頂ければ、私はうれしいです。また父母のよろこびと思います。】

古稀の祝いを兼ねて3月に思い出の母校近くの温泉で百名を超える同窓生が各地から集うことになっている。旧友たちはいったいどのような花を咲かせているのだろうか。楽しみである。


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