No.62 西の風新聞目次
鈍 感 力  
平成19年3月16日付

 「鈍感力」という言葉が話題になっている。
 小泉前首相が、安倍内閣の支持率が下げ止まらないことに対して激励の意味で「目先のことには鈍感になれ。『鈍感力』が大事だ。」といったことに端を発しているらしい。

小泉さんは首相在任時代の演説で故事など含みのある語句を引用して話題を呼んだ人であるが、ある年の所信表明演説でも「米百俵の話」を述べてその年の流行語にもなっている。

 「米百俵の話」とは、戊辰戦争(慶応4年~明治2年 明治新政府が江戸幕府勢力を一掃したわが国の内戦)で破れ、焦土と化した長岡藩(現新潟県長岡市)。その窮状を見かねた支藩から見舞いの米百俵が贈られることになった。藩士たちは配分を心待ちにしたが、大参事小林虎三郎は藩士に分け与えず、「米を売り学校を建てる」と決定した。いきり立つ藩士を前に「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」と諭し自らの政策を押し切ったというものである。目先のことにとらわれずという観点から見れば、この故事もある種の「鈍感力」に通ずるのかも知れない。

 小泉さんが今回持ち出した背景には、小説「失楽園」などで有名な作家・整形外科医渡辺淳一さんの近著「鈍感力」(集英社2007年2月発行1,115円)があると考えるのが一般的なようだ。

 渡辺さんは、この書で現代人に些細なことで動じない「鈍さ」こそ今を生き抜く新しい知恵と説いている。

 週刊文春3月1日号(著者は語る)では次のようにも言っている。鈍感ゆえのおおらかさで一人で暗く考え込まないで行動する力を身につけて欲しい。そのためには人と接することが大切という前提に立って、「最近の世の中は、以前より知的になったかもしれない。しかし人と人との関係が非常に弱いというか、脆い。昔は子供の頃からガキ大将やボスなどがまわりにいて、それらと接するうちに自ずと人間関係というものを理解してきた。しかし今の子供たちは個室で勉強かゲームをするだけで純粋に培養され、人と接する機会が少なすぎるから、人や集団というものを学べない。」

「鈍感」とは広辞苑によれば「感じ方や感覚がにぶいこと」とあるが、「敏感力」が底辺にあってこその「鈍感力」のプラス面が論じられるべきものなのであろうと私は思っている。単なる「鈍感」では困るのだ。




 index        西の風目次 
2002・8・9~ Produce byIchiro Akami