No.56 西の風新聞目次
郷土教育の推進と大人の責任
平成18年10月27日付

―『鄕土は全地球を學ぶに必要なる總べての材料を具備す』『自然は地球の各隅に於て全体の縮影を有す』『鄕土に還れ』等と唱へられ、人間生活が其の土地その傳統、其の環境の中に渾然と働き出して居る地人相關の境地である處に大きな意義が見出さるヽなり。(原文のまま)―

前記は昭和六年、ある町が発行した郷土史の序文の一部である。旧仮名遣い旧漢字の羅列で恐縮だがじっくり読むと郷土教育の大切さについて言い得て妙な文章と感心している。

我がふるさとあきる野市でもその前身秋川市(以下「秋川市」と記述)の時代に、時の市長臼井 孝氏(現都議会議員)が提唱して「郷土教育とその推進について」真剣に取り組んだことがあった。

先ずその手始めとして、市民各層の参加で郷土教育懇談会を設置した。(昭和五十六年十月 座長中央大学法学部教授眞田芳憲氏)懇談会の設置目的は、秋川市の風土や歴史のなかで培われてきた先人の生活の知恵を掘り起こし、「わがまちでしかできない」個性ある郷土教育の叢生を目指し、郷土教育にかかる問題について広い視野から検討し、創意ある意見に基づき、長期的展望に立った総合的提言を市長に対して行うというものであった。

一年間の検討を経て翌昭和五十七年十月に報告書としてまとめあげ市長に提言している。その内容は、「美しい郷土づくり」「豊かな自然の保全と保護」「歴史の正しい継承と歴史的文化遺産の活用」「郷土を愛し、郷土人としての連帯感溢れる心の育成」等についての提言で構成されている。

圧巻は、以下の行と私は今も思っている。―秋川市は先進都市の構想を模倣した「まちづくり」を行うべきではない。秋川の自然環境や歴史的文化、伝統をいかした「郷土秋川」の匂いのする「まちづくり」を進めることこそ、秋川市民としての自覚や誇り、そして郷土愛と連帯感が生まれてくるのである。―

以後秋川市はこの精神を活かし、まちづくりに励むのであった。昨今、国策として「美しい国 日本」づくりに取り組もうとする動きを見る時、一部それに酷似したことを二十年以上も前に一地方都市が既に取り組んでいたのである。

時は流れ秋川市は歴史、伝統豊かな五日市町と合併し新市あきる野市が誕生した。優れた素材を持つこの都市のキャンバスにどのような絵を描き将来に残そうとするのかは我々大人達の責任と考える今日この頃である。


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