No.54 西の風新聞目次
読み書きの楽しみ
平成18年9月15日付

 7月29日付毎日新聞夕刊(全国版)に『自然の中で読書塾 本のある半生今度は人のために 「週刊現代元編集長」』という記事が大きく載っていた。
そこに登場する鈴木富夫氏(66)は、実は私の少年時代の遊び友達だ。私より少し年下だが小学生時代毎日朝から日の暮れるまで食事の時間も惜しんでメンコ遊びや川魚釣りに興じたりした大切な仲間だった。
早稲田大学英語英文科を卒業後講談社に入り、「週刊現代」の編集長など務め現在は引退している。その鈴木氏が、―「本と共にあった半生を人のために生かそう」と決め古里に近い新潟県朝日村に土地を買いケヤキの森の中に建てた家に読書塾「けやきぶんこ」を開き、村役場の協力もあって20~70代の約60人と読書の喜びを分かち合っている。―という記事内容なのである。
 テキストに藤沢周平の「蝉しぐれ」、浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」を使い、皆で同じ本を読み、好きなくだりや初めて知った言葉を発表し合っているという。

 私のライフワークは「社会教育(学校教育外の教育)」なのであるが、学校教育が、教える者と教えられる者の立場が明確であるのに対して「社会教育」は「相互学習―互いが教える者、教えられる者の立場を共有する。(互いが、互いに教え学ぶ。)―」の考え方に立っている。けやきぶんこの実践はまさにこの路線に立ったすばらしい試みと私は思っている。と同時に常住の地を首都圏に持ちながら古里とはいえ、遠く離れた地で自らの経験を人のために生かそうとする鈴木氏の決断に注目している。

 私は現在新潟の友人がインターネット上で毎月一回発行している情報誌の一コーナーの手伝いをしている。ふるさとを出て全国で暮らしている者達が、我がふるさと発展のためにリレー式に随筆を書き合おうという趣旨ではじめたものだ。ただふるさとが同じということを頼りに見知らぬ人に執筆依頼をする苦労はあるものの、わずか千二百字以内という制限の中で「書く楽しみ」を感じてもらい、この5年間に60名を超える仲間が登場した。近くに住んでいる者同士が集ってふるさと料理を囲みながら話し合うのも「楽しみ」の一つとなっており、遠くにあって故郷を想い発展に協力しようとする者の一大ネットワークが形成されつつある。

 忙しい日々を送っている我々大人達も子供達に負けず「読み書きの楽しみ」に挑戦してみてはいかがだろうか。


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