No.39 西の風新聞目次
鮎の香り
2005年10月7日付


 鮎釣りの漁期も終わろうとしているが、秋川では釣果がよく体長三十一センチ、重さ二六十グラムのビッグなものも釣れたという。
 鮎といえば、私の先祖の地、新潟・村上市の三面川(みおもてがわ)もその釣り場として秋川に負けない有名なところである。圏央道が開通したお陰で関越道・北陸道・日本海東北道と乗り継げば車で五時間程の地となり、秋川・多摩川の名人達も多く出かけている話を耳にすることがある。

 その村上出身者に稲葉修という方がいた。氏は、中央大学法学部教授、衆議院議員(昭和五十一年ロッキード事件の最中には法務大臣)、或いは、大相撲横綱審議委員をつとめる等幅広く活躍されたので記憶にある方々もおられるかもしれない。
 稲葉先生にはもう一つの顔があった。それは「日本の水をきれいにする会」の会長としての顔だ。先生は幼少の時から清流三面川で鮒を釣ったりえびをとったりして遊び、後に鮎の友釣りを趣味として秋川をはじめ全国の河川で楽しんだようだ。
鮎釣りを通してダムの開発等でだんだん川の水が汚くなって、魚も少なくなっていくことを憂い 水質浄化、水域美化≠ニいう国民運動に取り組み、「日本の水をきれいにする会」の会長に就任し先頭に立って活動した。
 先生著による「鮎釣り海釣り(昭和五十七年二見書房)」という本がある。単なる釣り日誌でなく人生哲学が滲み出て興味深い文章が満載されている。その一つを紹介しよう。
―みなさん、鮎をお釣りになりますか。近頃大きな宴会になりますと、出てくる鮎はみな、あれ養殖ですよ。見分けつきますか。わしはすぐつくな。友釣りを長年やって天然鮎を見ていますからね。養殖の鮎は目つきが悪い。目がとろんとしてね。それから丸々太ってはいるけれども、顔にしまりがないですね。鮎は香魚というんだけれども、独特の香りがないんだ。(中略)大体鮎に香りがなくなったように人間に香りがない。どうなるんだろう。人間に個性がなくなってなあ。―(釣りと人生朝日「釣りと映画の夕」講演より) 

夏の日差しが照りつく日、都内で故郷会(筆者会長)の「三面川の鮎を食べる会」が催され、塩焼き、てんぷら、姿煮と鮎づくしの料理を楽しんだ。稲葉先生のご努力で清流が戻った川でこの日のために仲間が釣り上げた鮎には香りがあり姿にはたくましい個性があった。
天然の鮎には清流が不可欠だ。養殖でない天然の人づくりには「よき環境」が決め手になる。


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