No.35 西の風新聞目次
生徒手帳
2005年7月1日付
 我が家の私の小さな仕事場を整理していたら思わぬものが飛び出してきた。それは私が新潟・村上中学校三年生だった時(昭和二十七年)の生徒手帳である。適当な書き込みがあって下手な日記より臨場感があり、懐かしさと感動に浸りながら読み込んでしまった。

手帳には、その時代の世の動きを感じさせる中学生活三年間の学年・学期の主題が設定されている。例えば、三学年の学年主題には「よい職業人を目指す中学生」とある。記されたメモによれば三年在学数約三百五十名の内高校進学希望者は二百名、残りの百五十名は就職、家事手伝い希望とある。今の時勢からは考えられない数字だが、半数の者が義務教育を終えて実社会に飛び込む時代であった。

又、教育基本法第一条「教育の目的」及び学校教育法第三十五条「中学校の目的」、同法第三十六条「中学校教育の目標」が印刷されており、その主旨を学校教育の中で教え込まれた気配を感ずる。
両法は、ともに昭和二十二年三月に公布された法律で我が国の学校制度の基本を定めたものであるが、戦後日本の復興にかける人づくりに対する大人達の意気込みが伝わってくる。その法の精神は今なお継続されている。

「私の目標」欄もあり、自ら決めたことが自筆で次のように書かれている。
◎学力の向上
◎身体・精神の向上
以上を二大目標とす。
・映画は一か月または二か月に一回とする。 
・授業中は真面目に。
・学校の規則は守る。

 二月頃になると「高校入学試験合格までは映画は絶対禁止勉強一筋」とあり、私と同年代の美空ひばりの映画に夢中になっていたこととが重なり合って思わず苦笑した。
 三月二十三日、新潟の冬は日本海から吹きつける雪混じりの寒風が厳しい気候であるが、私はこの日、自分なりに努力した結果を求めて志望高校を受験した。数日経った夜、近隣町村の卒業生達とともに東京・上野へ向う夜行列車(集団就職列車)に乗る友の姿を町外れの駅で見送った。

 あれから五十余年、旧友等に会う時それぞれ異なる道を歩んできてもたくましく成長した姿を見ることが出来るのがうれしい。

 「角兵衛獅子の唄」(美空ひばり 昭和二十六年)、「ああ上野駅」(井沢八郎 昭和三十九年)に特別の感慨を持つ爺の古き「生徒手帳」を介しての小さな思い出である。

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