No.22 西の風新聞目次
赤ちゃん
2004年5月21日付

 先日ある手術のため一週間程入院した時のこと、たまたま乳児患者の病棟と同じフロアーであったので、入り口は事故防止のため四六時中施錠されている等、普段の入院生活ではあまり味わえない体験をすることができた。
 「赤ちゃんの泣き声で悩まされる」という心配とは裏腹に、単調な入院生活に、「泣き声」がある種のアクセントをつけてくれることになり、むしろ私を温かく包み込む役割を果たしてくれた。

 赤ちゃん達とは病棟で接触することは治療上の観点からか不可能であったので、あの愛くるしい姿に間近で接することはなかった。そのかわり耳を通しての出会いは十分できる日々であった。
 泣き声によって見知らぬ赤ちゃんを識別する楽しみがあったのである。太い大きな声でママを慕って三晩泣き続けたあの子は、きっと体も大きくて元気な男の子か、いや声は人一倍だが意外に小柄なかわいい女の子かもしれない等と想像し楽しみはつきなかった。  入院三日もすると泣き声の大合唱の時間が毎日ほぼ一定していることに気が付いた。その理由を看護師に尋ねてみると、それは空腹でも生理現象でもなく母親との別れによるものという返事が返ってきた。
 そういえば昼間窓越しに母親の胸に抱かれ安心しきって寝ている子、父親にあやされ笑っている子等の姿を垣間見ることが出来たがその時は一人として泣きじゃくっている子はいなかった。

 見舞いに訪れた母親達が、病室で平和なひとときを過ごし子供達を病院に残し帰宅する夕方七時、「ママ恋しの大合唱」が始まる。
 この光景を目の当たりに見て、「乳児にとっては母親との接触が多ければ多いほどその子の成長によい結果をもたらす。」という確信を情緒的にあらためて感じとることが出来た。
 赤ちゃんは、生まれてから二週間ぐらいまでのごく早い時期に視覚、聴覚、嗅覚などの感覚機能により、母親を他の人と区別できる豊かな感受性が備わるといわれている。特にこの時期のスキンシップは、赤ちゃんの心の安定に欠かせないものなのだろう。

 親は赤ちゃんの泣き声で空腹か生理現象か甘えて泣いているのか経験で区別できる。「甘えで泣く子の対応を間違えると我儘な子供になる可能性がある。幼児期の愛情、一生を左右」と十年前ある新聞の教育欄に平山郁夫氏が書いていたことを思い出した。
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