吉川真嗣・美貴の二人旅  No.16

     北方文化博物館
           新潟分館


               新潟県新潟市南浜通
            

  台風も過ぎ去り、全国的にいよいよ夏本番となってきました。これからしばらくの猛暑を想像するだけで、だるさと倦怠感が襲ってくるのは私だけでしょうか。今はどこも365日、エアコンで快適に気温の調整がなされているわけですが、空調が皆無だったその昔はどうやって涼をとっていたのでしょうか。思い致すに、それなりに夏というものを結構楽しんでいたのでは、そんな感触をもてた、今日は北方文化博物館新潟分館(伊藤家別邸)からお送りします。

   新潟市の西大畑辺りというと、中心に位置しながら交通の激しい喧燥からは離れた、落ち着いた趣きのある住宅地である。
伊藤家別邸と並んで「いきなり亭」(広い敷地に伝統的和風建築の料亭)があり、この界隈を散策すると「近代都市新潟」のイメージが先行している方も、この土地の歴史の重みを感じられるというものである。
 
  伊藤家別邸は新潟市名誉市民第一号である、会津八一の終焉の地でもあり、歌書もたくさん展示されている。その歌書に称えられるかのように、手入れの行き届いたお庭とそのお庭を見渡す表座敷が、ひときわ美しい。敷地内には大正建築の茶室「清行庵」も枯れた趣きで佇む。四季折々に咲く草花が、明治・大正の建築にそっと寄り添い、双方に長く語らい続け、四季を循環してきた秘めやかな佇まいでもある。
 
  表座敷に座ってみると、簾を通して見えるお庭もまた格別のもので、目に涼やかである。時折かすかな風に風鈴がゆったりと優しく鳴り、その余韻にしばし心も清やかになるというものである。日本人独特の感性として簾や風鈴に涼やかさが感じられるとは理屈で分かっていても、心底満たされながら体感するのは初めてではなかったろうか。

   文人、会津八一が晩年をどんな面持ちで、この地に暮らしたことか。歌や書に見られる孤高蒼古と評価された境地の人物には、この座敷も簾も庭も、風鈴も草木1本に至るまで、如何ほど感応同交していたことであろう。

    時にはエアコンの無い、昔ながらの佇まいに身を寄せて、夏は夏の風情を堪能されること、おすすめである。



北方博物館新潟分館案内図

新潟県新潟市南浜通2-562
025-222-2262

  
文・写真
   吉川 真嗣・美貴

   


表座敷より庭園を望む。
建築時そのままで100年を経て今日に至っている。



おすすめ食事処
会津名産
 本ぼうだら煮
 にしん山椒漬

 
福島県会津若松市相生町
 Tel 0242-22-2274




歴史を感じさせる庭木群



開け放された座敷には心地よい風が




枯山水の庭の東南に面する
2階建て洋館をバックに
散策を楽しむ筆者



上菓子司 会津葵


表 紙 今月の目次 WEB情報 サイトマップ バックナンバー 検索・リンク