吉川真嗣・美貴の二人旅  No.14

    丸井今井邸 

               新潟県三条市


  かつてその昔、村上の飛地領だったこともある、三条。商業で大いに賑わった三条に引きかえ、財政困窮することの多かった村上では、支払いは三条で、という意味の「三条っぱらい」なんて言葉が、人々の間で威勢よく飛び交っていたそうな。

  時代は大きく変わり、かつての賑わい・繁栄を思い起こさせるような昔ながらの建物は、近代建築の谷間にひっそりと影をひそめている。今回はそんな市の中心部に位置する、老舗百貨店丸井今井の創業者、今井藤七翁ゆかりの建物、丸井今井邸のご案内とさせて頂く。


  迷って迷って辿り着いた今井邸であるが、なんとアーケードのスーパーのお隣というロケーションには驚いた。立派なお庭の奥に出てくる純和風の木造建築と、この周辺環境とのギャップ、時代の変遷の中ではこれも致し方ないことなのであろう。建物内部での解説して下さる男性の話では、昭和10年に梨本宮さまがご来条、ご宿泊されるということで、今井家がその為にお建てになったものだとか。昔の財閥というのはすることが1桁違うと改めて感じながら、内部を巡って行くと、あちらこちら段差だらけの構造が面白い。お付きの女官や警護の為の控えの間など、宮さまがおやすみになられる部屋よりすべて低くされており、天井の高さ、天井板の幅に至るまで差を付けて造られている。大変珍しく拝見したのが2階の廊下まわりの板が緩やかな傾斜をもって配されていたことで、老朽化による傾きではなく、暑い夏の夜、窓を開けたままの際、夜露が下で受けた板に沿って、外へと出るようにするためだとか。いやはや、心憎いほどの細やかさである。
  前庭の飛び石と灯篭を埋める松、ツツジ、カエデの新緑も目に柔らかく、苔むす土をそっと這う風も穏やかで爽やかである。

  多数の市民の共感と支援で、壊されることなく残された、丸井今井邸。町中にそっと佇む、静謐な空間。今や、三条市の宝を超えて、日本の大切な財産である、こんな空間に目を留めて寄付を惜しまなかった三条市の皆さんに心からの拍手と感謝の気持ちをおくりたい。

 
   
文・写真
      吉川 真嗣・美貴

   

丸井今井邸


おすすめ食事処
会津名産
 本ぼうだら煮
 にしん山椒漬

 
福島県会津若松市相生町
 Tel 0242-22-2274



今井藤七翁


丸井今井邸座敷



上菓子司 会津葵


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