2017年12月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.196




自慢の郷土料理



須崎ミチ子
(スザキ ミチコ)
旧朝日村立猿沢小学校昭和40年3月卒
現在:東海大学菅生学園初等学校家庭科講師
過去:東京都公立中学・高校にて30年間家庭科教員として勤務








筆 者









 お正月が近づくと目に浮かぶ光景がある。
 実家のニワトリ小屋の前。ちらちらと小雪が舞う中で、祖父が、ニワトリの羽根を勢い良くむしっている。そして、いろりのある部屋の隅で、出刃包丁でそのニワトリを解体し、その肉は、正月料理の大海(だいかい)の欠かせない材料となるのだ。卵巣の中から、まだ卵になれない、満月のような卵黄がゾロゾロ出てきて、それも大海の中に入っていた。
 小学校低学年の頃の記憶だと思う。
 大海とは私の故郷、朝日村地区に正月や祭、冠婚葬祭にかかせない料理として作られる郷土料理である。
 土地の言葉では「だいげ~」である。話し言葉ではだいげ~であるが、文字ではどう書くのかは最近まで知らずにいた。十年ほど前に、池袋駅近く、朝日村出身者の方が経営しているお店へ行き、メニュー表を見て、「大海」と書くのだと、その時知った。
 そして今、ネットで検索をすると、大海の作り方がぞろぞろと表れて、作り方を教えてもらえる。便利な世になったものだ。
 どんな料理か?ときかれれば、様々な材料を千切り風に切って煮込んだしょうゆ味の汁けの多い郷土料理だと答えている。
 池袋の店で食べた大海は、見た目も味も都会的にアッサリした感じにアレンジされていた。それは、材料が5~6種しか入っていないせいだと思った。私がずっと食べ続けている大海は、指を折りながら答えようとしても、とっさには全部いえないほどのの種類が入っている。
 結婚後、大晦日にずっと作り続けているが、日記に必要な材料を書き留めてあり、それを見ながら、年末になると材料をそろえるほどだ。

 作り方は、母の手伝いをしながら覚えた。二十歳の頃から結婚するまでの大晦日の日、実家に帰省し、毎年大海作りをした。
 朝早くから大量のごぼうを千切りにするのが、大仕事だった。
 そして里いもの皮をむき、切ることも。何しろ、大鍋で作るので台所のガス台では鍋はのせられない。したがって台所の外の入口に専用のガス台を置いて、そこに大鍋をすえて煮るのだ。他の材料は、人参、かんぴょう、干しいたけ、焼豆腐、しらたき、タケノコ、ぜんまい、ちくわなど。
 材料が多いので、ひたすら切ることばかりで、全部切り終えると、決って包丁を握る右手にマメができた。
 もやし、焼豆腐、しらたき、ちくわ以外は、自家製の材料だったように思う。かんぴょうや干しいたけ、ぜんまいなど当時は母が作っていたから。
 大鍋を設置し、小雪がちらちら舞う中を寒い思いをして、半日がかりで、この料理を作った。味つけは、酒、塩、しょうゆ。かくし味に少量のさとうを入れた。正月の三日間は三食、大鍋から小鍋に食べる人数分をとり分けて温め直して食べた。何回食べても食べ飽きるということはなかった。毎回、おいしいのだ。4日目には大量にあった中身が、もう鍋の底にわずかしか残っていなかった。大海のおいしさの秘密は、材料の多さにあると思う。それぞれの材料から出るうまみが、なんともいえぬ複雑なだしの味を作り出すのだと思う。まろやかなうま味と身体の隅々まで栄養が行き届くような、そんなホッとする自慢の伝統料理だ。
 知人や友人たちに、この料理をおすそ分けしたり、作り方を伝えたりしているが、我家の正月料理として今後も作り続けようと思う。

 興味をもたれた方に、一度作ってみることを勧める。
 しかし、ちょっと覚悟がいる。そろえる材料の多さと下ごしらえに手間がかかること。しかし、これをがんばれば、おいしい大海が出来上がること、まちがいなしだ。
 なるべく大きな鍋でたくさん作って欲しい。
 なにしろ“大”海なのだから。


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