http://www.murakami21.com 村上広域情報誌2001 2007年9月号

  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.75

海を挟んでアンニョンハセヨ
板垣 勝夫
(いたがき かつお)
1951(昭和26)年 村上小学校卒業
元本郷高校教頭
1962年から42年間、本郷中学・高等学校の教員として地理を担当。
1972年に初めて韓国を訪問。以来韓国修学旅行の実施と韓国との教育交流に尽力。本郷高校生と韓国の中央高校生との交流文集出版などで、1987年度の読売教育賞を受賞。
2004年定年退職後、韓国の高麗大学国際語学院に1年半留学。






高麗大学国際語学院の卒業写真。
前列中央の韓服姿が筆者。












ケッペ(蟹舟)
1997年の写真。ドラマ化される以前の素朴な交通手段だったケッペが私は好きです。







 瀬波の浜に立ち、佐渡と粟島との間に沈む夕日を拝む。その時、もし夕日の中に緑のコロナを見ることができたなら、かけた願いが必ずかなえられる。東京から村上に移り住んだ在日の女性から聞いた。振り返ってみて、子供の頃からいく度となく夕日を拝んできたのだが、いまだ緑のコロナを見たことがない。一度でよいから見てみたいと思う。
 夕日が沈む海の向う、村上と同緯度に位置するのが韓国江原道の束草(ソクチョ)市である。何年前だったか、村上と束草との姉妹都市締結の話がもちあがり、束草の市議会関係者が村上を訪問、市内の要所を見学して帰ったという。束草側は締結に積極的だったようだが、村上側がいまひとつだったらしく、結局、話は立ち消えになってしまったようだ。
 束草は面積105㎢、人口9万、海・山・川・湖、それに温泉にもめぐまれた魅力的な観光都市だ。私の一番のお気に入りは、西にひかえた国立公園・雪嶽山(ソラクサン)渓谷のトレッキング。八方に開けた谷あいを流れる清流が、いたるところに淵をつくり、夏はエメラルドグリーンの天然プールになる。家族や若者たちがそれぞれの淵を独り占めにし、テントを張って逗留する。交流しているソウルの中央高校山岳会の山行に加わったことがある。見ているとすれば雪嶽の天女だけだからと、先生方とすっ裸で天然プールを泳ぎ廻った。天女には申しわけなかったが、そんな姿で川に飛込んだのは、三面川で近所の友達とはしゃぎまくった子供の時以来だった。
 この地でいちばんおいしいものは、と聞かれたら、私なら躊躇なくスンドゥーブチゲ(おぼろ豆腐なべ)を挙げる。雪嶽山の水が、良質な大豆を産み、おいしい豆腐を育んだ。山麓に点在する「スンドゥーブ村」は、ソウルからの客でいつもにぎわっている。秋になると松茸も出まわり、日本からのツアー客がやってくる。海・山・里のおいしい食べものは村上にひけをとらない。
 束草は白砂青松の砂浜海岸をもち、海水浴場としても人気が高い。この砂浜が海を閉じこめ永郎湖(ヨンニャンホ)と青草湖(チョンチョホ)という潟湖をつくっている。瀬波や岩船では、とうに埋め立てられた潟湖も、ここでは美しい姿で生きていて、湖畔にはリゾートホテルや別荘が立ち並ぶ。中心街は2つの湖に挟まれた地域に広がり、港に近い通りには刺身屋団地まである。私は、ここでは刺身を肴に一杯やりながら、オジンゴスンデを食べることにしている。オジンゴはイカ。スンデは腸詰。いわゆる「イカめし」のたぐいだが、中に入れる具に工夫があって人気が高く、束草名物の一つとして全国的に知られている。
 一大ブームを呼びおこした尹鍚瑚(ユンソクホ)監督のドラマ四季シリーズ。そのひとつ「秋の童話」の撮影地として束草は日本における認識度を一気に高め、ドラマファンが大勢おしかけるようになった。おめあては、海水浴場の砂浜からのびた砂州の上に位置するアバイ村と、そこに渡るために乗るケッペ。アバイ村は北朝鮮を故郷にもつ人たちが、北に帰る日を待ちながら住み続けている集落で、アバイとは北で父親という意味である。またケッペのケッは蟹、ペは舟を言い、乗客が金具をロープに引っかけ、舟の中を歩きながら引張り進行させる。蟹がはうように水路を横切るのでそう呼ぶようになったという。
 韓国の人たちにとって東海(トンヘ 日本海のこと)は朝日が昇る海である。韓国で私は何度も昇る朝日を拝んだ。釜山(プサン)、慶州(キョンジュ)、東海(トンへ)、江陵(カンヌン)。束草のすぐ南の洛山(ナクサン)ビーチでは、泊まる度ごとにすばらしい朝日に出会うことができた。しかし、束草だけは駄目なのである。雨に降られたり、前夜の酒で朝起きができなかったりして。
 留学を終え帰国し、この5月、13年ぶりに村上中学の同期会に出席した。会場は瀬波温泉の大観荘。5回目を記念して、三面川の中洲公園にバスで出かけ、桜の苗木をクラスの倍数の12本植えた(実際は役員の人たちが前もって植えておいてくれた)。そんな配慮の行届いた行事もあり、友情に満ちた楽しい会であった。その一方で私は宴会の間、窓の外に広がる海が気になっていた。もしかすると、ひそかに期待をしていたのだが、やっぱり駄目であった。雨雲が重く海をおおい、佐渡と粟島の島影さえ定かでなかった。
 はたして、生きている間に緑のコロナを見ることができるのだろうか。少々、心細さを感じるようになってきた。

リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)

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